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 私はめったにものをねだらないが、たまには彼に甘えたくなる。 それが唯一できるのが、旅先なのである。
あれこれ食べても、なにかお土産を買っても、支払いはすべて彼。 財布の中身を気にしないのは、こんなにもらくなのかと思った。
 彼も私が機嫌よくしているせいか、いつにも増して優しい。 こちらがねだらなくても、店先で可愛い服やジュエリーをみつけると「買ってあげようか?」といってくれる。
彼自身も、「なにかを買ってあげる」という行為が気持ちいいらしい。 喜ぶ私をみて、彼のほうがもっと嬉しそうな顔をしている。

 女になにかを与えて喜ばせるという行為は、年下男の狩猟本能を目覚めさせる。 狩猟というと、太古の昔は獣を獲ること。
現代に置きかえれば、ズバリ金である。 年下男は年上女の喜ぶ顔がみたいがために、頑張って金を稼ごうという気持ちになるのだ。

この気持ちは旅先だけでなく、日常生活に戻ってからも持続する。 なぜなら彼らは日常生活を旅先での生活に少しでも近づけたいと願うからだ。
今だからいえるが、私は彼と出会って数ヵ月間、自分の収入を半額程度にいっていた。 そのころの私は泥沼恋愛で心にひどく傷を負っていたし、男性不信に陥っていた。 ここで私の収入が彼にバレ、それをあてにされるようになっては困るとどこかで思っていた。 幸いにも彼はそんな男七やなかったので、今も「あの時、疑って悪かったな」と反省している。

 20代の若かりし頃、5歳年上の男とつきあっていたことがある。 その人は虫も殺せないほどの優しい性格の持ち主だったが、コンプレックスが強く人を鯨んでばかりいた。 それは自分と住む世界が違う芸能人に向けてではなく、私を含む身近な人間に対しても向けられた。 ラジオレポーターから女性週刊誌の記者になった私は、彼の収入をバビューンと飛び越えてしまった。
なにかのおりにギャラの話をした時、彼の表情が一瞬にしてくもった。 「しまった……」そう思った時には遅かった。

それまでの笑顔は消えマンガで表現するならば彼の周囲にだけ縦線がいくつも入った雰囲気が漂った。 そう、彼は私の収入が自分よりも多いと知るやいなや、深く落ちこんでしまったのだ。

それ以来、なにかあるごとに「お前のほうが稼いでいるんだから」と嫌味をいわれるのがつらかった。

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